そして彼は、ようやくトンネルを抜けた

そして彼は、ようやくトンネルを抜けた

2020年1月20日

東大寺学園中入試日の朝がきた。

その日の空気は
薄い青紫に霞んでいた。

昨夜はとうとう
一睡もできなかったが
眠ってないことに勘づかれてはいけないので
寝て起きたふりをした。

大丈夫。
かあちゃんは
いつものかあちゃんだ。

さあ、弁当を作ろう。

コロ助は以前、
模試の会場に早く行き過ぎてしんどくなり、
散々な結果になったことがあった。
東大寺の入試はきっと人の数も多いだろうから
9時過ぎに学校に着くように家を出た。

奈良学園入試のドラマチックな朝とはうってかわって
電車にも通勤の人がたくさん乗っている。

コロ助も緊張している雰囲気もそんなになかったけど
テンションは高くなく、
淡々としていた。
全てがそんな感じで進んだ。

高の原駅のバスロータリーには
すでに長蛇の列ができている。

私たちは迷わず
学校まで歩いた。

学校につくと、
校庭のあちこちから
円陣を囲んだり
大きな声援を送る塾の先生たちや
何組かの群衆が沸き立っていた。

出陣する軍隊を鼓舞するような雰囲気で
生徒を送りだしている塾もあった。

灘学習院はそういったことをしない。

そこは、私たちが灘学を好きな理由の一つではあるんやけど、
この圧倒されるような体育会系の雰囲気は
さすがに
気後れしないといえば嘘になる。

成人男性の張り上げる声は大きい。

聴覚が敏感なコロ助には酷だよな…

コロ助は一人だったので
最後に戦った戦友がゆっくり送り出そう。

私はこの日のことを
きっと何度も何度も空想し、
無意識にシュミレーションしていたのだろう。

頭の中ではずっと前から
さまざまな、かける言葉の候補が
思いついては消えを
くりかえしていたようなのだけれど、
今の気持ちはその想像したどれとも違っていて、
何というか、

ほとんど何も
言葉になりそうもなかった。

いっぱいいっぱいの親とは
こんなにも無力な存在なんだな。

最後の丸付けを校門の前でしてもらう(!)

今日はカワタ先生も東大寺学園に来てくれると
聞いていた。

何かわからないところがあれば
持ってきてくださいと言って下さった
コロ助は解いた問題を持ってきていた。

門から少し構内に入ったところにカワタ先生がいた。

先生に聞きたいところ、
最後に確認しておきたかった疑問点…

先生が作ってくれたプリントを
試験会場の門の脇で一つ一つ
丸付けをしてもらい、
見てもらっていた。

今から試験が始まるという朝にそんなことをしていたのは
コロ助くらいだろう。

残っていた疑問が解け、
合っていて丸をもらった問題に
確信を得ることができたようだ。

さっきまで淡々としていたコロ助の目に
光が灯っているように見える。

「そろそろ行くよ」

コロ助は
プリントの束をしまうと、
顔をあげて言った。

この間にも
私たちの後ろを
大手塾の先生たちの大きな声援に送られた
子ども達の団体が会場にかけ入って行く。

カワタ先生はコロ助に言った。

「まわりの子が
早く終わろうが
鉛筆置こうが、
どこそこに受かったどうの話していようが
気にしなくていいんやで」

「コロ助は5年生から受験勉強を始めたやろ。
あの子たちはみんな少なくとも
4年生の時からハードな勉強をしてきてる。
その子たちと同じ舞台に
今、君はいる。

君はできるんやで。
めっちゃできるんやで。
自信持っていいねんで」

そんなことを言われたと思う。

カワタ先生は、
子どものやる気を引き出すテクニックとか、
褒めて伸ばそうとか、
そういう感じの雰囲気は普段はない。
あまり表情も変えずに
いつも静かに授業をやる。

でも、その時は少し大きな声で言った。

コロ助は少しおどろき、
ハッとした顔で、
何も言わず大きくうなずいた。


「間に合わんかったかもしれん」と
越えられない壁の前で
自信を無くしていたコロ助に
その言葉はどんなふうに響いたのだろう。

「いってきます」

彼は行った。

黄色いリュックサックを背負った
強くて小さな背中が
だんだん遠ざかっていく。

けっきょく、
コロ助が試験会場に入る時まで
カワタ先生はずっと見守ってくれていた。


いつか二人で言ってたよな。

「これは手紙やんな。
思いを伝えるんやな。
この学校に入りたいという気持ちを
全力で伝えてくるんやな」

この言葉は、
カワタ先生が言ってくれたので、
何とか最後に伝えることができた。

会場の雰囲気に圧倒された
気後れが、
完全に自信をなくしてしまっていたコロ助に
襲いかかろうとしているところだった。

付き添いの人間が私だけだったら

コロ助の目に光を宿せただろうか。

情けない話やけど、
そうできた自信がない。

カワタ先生には
この窮地を救ってもらったとしか言いようがない。

恩師だったけど、
同時に”恩人”なんだろうな。

コロ助がんばれ。
もうここまできたら、楽しもうな。

そうだ、祈ってる場合じゃない

一人になると、記憶が
フラッシュバックしてきた。

待合所でただただ祈っていた。

1時間目が終わるチャイムが聞こえる。

その時、
気付いた。

は?

祈ってる場合か?

そうだ、そんな暇はない。

東大寺は厳しい可能性が高い。
そして、頼みの綱であった奈良学園はなくなった。

神大の対策、
可能性が0%に近くても、
1%以上ある限り
今からでもするべきじゃないのか、
せめて注意点だけでもあぶり出して、
コロ助に伝えるべきじゃないのか。

コロ助があきらめん限り、
最後の最後まで
やるしかないやろ。

待合室を出て公園に行き
持ってきたおにぎりを食べながら
神大の問題を解いていった。
手がかじかんできたので
高の原のイオンに場所を移し
過去問を解いた。
1年分解けた。

そして彼は、長いトンネルをようやく抜けた

午後、すっかり太陽が西日になった頃、
会場からたくさん出てくる子ども達の
一番最後くらいに
コロ助がにこにこのんびり出てきた。

“風邪をひいて発熱し、
寝たあとすっかり熱が下がった時”
みたいな顔だった。

やり遂げた顔やった。

「好きな問題ばっかり出た」

「国語は間に合った」
(題材は家にある本で読んだことあるやつ、しかも鉱物の話)

「最後にカワタ先生とやったやつに似たの出た」

その表情は、いつか見た
灘学習院の思考の日に
ほっぺたを赤くしてうれしそうに帰ってきた
コロ助のあの顔だった。

ついに彼はトンネルを抜けた。

大好きな学校の入試会場で。

2020年1月20日(月) 23:46
ロジックス出版
カワタケイタ先生


たびたび夜分にすみません。
今朝は、応援に来てくださりありがとうございました。

明日の試験のことでご心配をおかけし、申し訳ないです。
ご連絡をしたいと思っていたところでした。

おかげさまで、無事試験を受けることができました。

カワタ先生の言ってくださった言葉がとても彼の中に残っており、
(気持ちを伝えてくるんやで、が、大きかったようです)
「気持ちを全部ちゃんと伝えることができた」と、しっかり話してくれました。

よーい始め、で、いったんゆっくり見渡して…は、「あんまりできんかった」そうですが、
周りの子の鉛筆の音も、休憩時間に騒いでいるのも全然気にならず、
ただただ自分のやるべきことのみに集中できたそうです。
(そのせいか、出口から最後に出て来てからしばらくぼんやりした感じでした)
そして、何より嬉しかったのが、「算数、引き出し開いたよ!」でした。
算数が楽しかった時のコロ助に戻って来たようです。
カワタ先生に最後にプリントを見ていただいていた時に、先生の解答の書き込みがないダウンロードした紙がありましたが、
あれは、もう一度解き確認するためのものでした。
25分間の休憩の間に集中して解いたようで、そこで学んだことを使う問題が出た!と言っておりました。
見直しの時間が取れなかったと言っていたので、ミスがなかったことを祈りますが、合否がどちらになったとしても、
この受験で、今日、彼はとても大事なものを手に入れたのかもしれないと感じています。


明日の神大附属の勝算はゼロに近いですが、あの後いそいで過去問一年分を解き、
どう挑むのかの指針が定まりそうです。

ようやく彼はトンネルを抜けたようです。
ありがとうございます。

ベストをつくして頑張ります。

zettonkagon




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